その夢を見た次の日から同じ夢を見ることはなかった。やはり、私の中であの夢を意識しすぎてしまっていたのだろう。
これで良かったんだと思った。
「〜♪」
「〜ジャーン」
「〜ダンダンダン」
「〜タンタンタンタタン」
「……」
あの夢を見ることが無くなった日から練習で私が同じところでミスをすることはなくなった。
「紗夜、やっと本調子に戻ってきたわね」
「良かったです〜」
「…はい、ありがとうございます」
「この調子で次のライブも頑張ろ〜」
「はいっ…」
これでいいんだ。私のいつも通りの日常に戻れた。そう感じているはずなのに
(どうしてだろう…..)
私の胸の中には謎の引っ掛かりがあった。
あの夢のことを忘れようとして、やっと忘れた。そしていつもの自分に戻ってこれた。でも、それでいいのか?本当にあの選択は…
頭の中でモヤモヤが残る。
「お姉ちゃん?」
「!」
「どうかしたの?さっきからギター持って静止してるけど」
「あ…」
私は気付けば自分の部屋でギターを持っていた。確か、練習が終わって帰ってきてご飯とお風呂を済ませて自室に戻ってきた…のかしら。
ずっとあの夢のことを考えていたからか前後の記憶が曖昧だ。
「というか、なんで貴女がこの部屋にいるのよ」
「えー?ちゃんとノックしたよー?でもお姉ちゃん返事ないし〜」
「….それにお姉ちゃん、今日一日変だったもん。ずっと心ここに在らずって感じで、全然ルンとしないし」
「そう…」
まさか日菜に余計な心配をさせていたなんて。私は姉として不甲斐ないなと思った。
「…ねぇ日菜」
「ん?何?お姉ちゃん」
私は日菜に自分の悩みの種を全て話した。今回は夢の内容も全て隠さずに吐露した。
「なるほどね…」
「……」
きっと日菜も夢なんて気にするだけ無駄と言うのだろうか、そんな不安があった。
「んで、結局さ、お姉ちゃんはどうしたかったの?」
「え…?」
予期してもない質問が飛んできたことに私は不意を突かれた。
「お姉ちゃんは、その夢のこと気にしてるんだよね?ならお姉ちゃんはその夢をどうしたいの?」
「どう…って…言われても…」
「その夢を気にするってことはお姉ちゃんにとって何かその夢で果たしたいことがあるんじゃないの?」
「たとえば…その女の子を助けたいとか…」
「!」
「あ、お姉ちゃんその表情ルンってする」
「!で、でも何度も手を伸ばして…!それでも…!届かないのに…!どうしろって…」
「…お姉ちゃんがどれだけ苦しかったか、辛かったかは私には分かんない」
「でも、何度やってもダメだからってもうやらないになるの?」
「…」
「お姉ちゃんにとってその程度のことなの?」
「…」
「お姉ちゃんが諦めたいならそうすればいいと思う。けどもし、少しでも未練が残るならさ」
「諦めちゃダメじゃない?」
私の中で少しずつかけたパズルのピースがはめられていく。
「もし、お姉ちゃんが挫けそうなら私が慰めるよ!さぁ、お姉ちゃん!私の胸に飛び込んっ!?」
私は日菜の広げられた胸の中に飛び込んだ。
日菜の体はあったかくて、柔らかくて、心臓の音がした。生きてる証拠だ。
「?!?!?!お、おねっ、ちゃ…」
私はあの子を助けたい。手を伸ばして、掴みたいんだ。たとえ夢の中であっても。
「…ありがとう日菜、私はもう迷わないわ」